
フレットの擦り合わせ作業
最近、擦り合わせ初体験というお客様が多いので考えてみます。
擦り合わせを体験した事のないほぼ100%の人が、擦り合わせでフレットを削るという行為を恐れています。
擦り合わせの目的の前に、なぜ擦り合せが恐怖なのかを考えたいと思います。
確かに、恐いですよね。。。
特にギター弾きは、チョーキングやビブラートを多用することから、フレットを削る事で弾きにくくなってしまうのではないかと…
なかには、擦り合わせ作業はきっちりやらなくて良いので、フレットの高さは残して欲しいと言う方もいらっしゃいます。(ただ、そういった作業はお断りさせてもらっちゃいますが...)
それでは費用だけかかって、擦り合せをする意味がないですね。
しかし、作業の精度以上にフレットの高さの方が、ギター弾きにとってそれだけ重要なのだということだと思います。
僕もギター弾きです。
なので、ギター弾きの気持ちはまぁわかります。
では、弾きにくくなるとはどういう事か?
なぜフレットに高さが必要なのか?を考えてみます。
好みもありますが、僕は、フレットにある程度の高さがあった方が、指板との距離・摩擦の関係から良いと思っています。
では、フレットに必要な高さとは何かを考えてみます。
それは、上記の距離・摩擦の問題になってくる気がします。
特にギター。
極端にフレットが低くなると、弾いた際、弦がフレットに当たる前に、まず指先が指板に当たります。そして、弦をフレットに当てるために更に力を入れて押さえます。結果、弦が大きく指に食い込みます。
この無駄な力を生むのが、フレットの低さの問題の一つです。
そして、次に摩擦です。
前述の理由から、指と指板が大きく触れる事で生まれる摩擦はチョーキングする際に、逆の方向への力を生み、またしても余分な力を必要とさせます。
ビブラートも同様だと思います。
つまり、指の皮が硬くカサカサの乾燥肌の人の方が、指に弦が食い込みにくく、摩擦も少ないので、低いフレットにも割かし対応出来るのかもしれません。
逆に、柔らかいプニプ二の指先には、上記の問題を考えると低いフレットは不向きかもですねぇ。
まぁ前述のような問題が、弾きにくさに繋がると思います。
つまりは、弾く人にとって必要な高ささえ稼げていれば、問題はないということの様な気もします。
次に、擦り合わせのされていない状態の楽器について考えます。
擦り合わせ未経験の多くの方の楽器が、大なり小なり不揃いのフレット・すり減ったフレット・曇ったフレットを有していると思います。
不揃い・すり減ったフレットは、特定のポジションでのビビリ・音詰まりの原因や、弦高の不均等さを誘発させてしまいます。
結果、低めの弦高でのセッティングが出来なくなってしまいます。
もちろん、各フレット上での音程も合わなくなってしまいます。これでは、せっかくのバズフェイトンシステムもサークルフレッテイングも、効果を発揮出来ません。
精度の良いチューナーできっちり開放弦を合わせても、指板上を弾いたとたん音程はズレ始めます。
当然、流行のポリフォニックチューナーを使っても、同様の結果です。
そして、しっかり調整したオクターブチューニングも、効果を発揮出来ません。
また、曇ったフレットはその摩擦により、チョーキング・ビブラートの障害になります。
また、摩擦により、更に弦やフレットの傷み・減りを進行させていきます。
しかし、その多くは、徐々に進行していく変化のためか、感覚がなれてしまい、大した症状に感じない人が多いようです。(購入時からある不揃いのフレットも、その楽器のクセだと考え、ビビリを気にしない人も意外に多いようですね。)
音を気にするであろうプレーヤーの多くが、実は、音(音程)をあまり気にされていないで弾いているということでもあると思います。
そして、バズフェイトンなどの必要性に疑問が出てしまう結果でもあると思います。(僕個人の意見です。)
ハイパワーのピックアップへ交換しても、ズレた音程を増幅させるだけしか出来ません。
分離の良いクリアな音質のピックアップにも、不安定な響きをなおす事は出来ません。
綺麗に並んだフレットがあって初めて、材・パーツ類の効果が現れると思います。
ただ、フレット擦り合わせと言う作業が、上記悪い部分を取り除く手段の1つだと分かると、作業の必要性や僕が奨める理由が、少し分かってもらえるかと思います。
最後に、ちょっと作業について。
擦り合わせ作業は、作業するお店・作業の仕方・作業する人によって、仕上がりの精度・結果が全く変わってきてしまいます。(これは、他の多くのリペア作業にも言える事だと思います。)
実際に、作業方法自体は幾通りも存在します。
そして、その数だけ精度のバラツキも存在してしまっています。
もちろん、作業する人の細かな作業内容の違い・クセ・考え方の違い、また、極端な話ローポジだけを削る人、ハイポジだけを削る人、全体を均等に削る人などなどがあり、大きく精度・結果に影響してしまっているようです。
僕はギター弾きということもあり、ギター弾きが使いそうなポジションや、高さが必要と考えるポジションの高さは出来るだけ残した上で、綺麗な直線に仕上げたいと思っています。(すり減り度合いや状況により、絶対ではないですが。)
これは、技術的な問題ではなく、リペアする人が、どれだけプレーヤーの目線・感覚になれるかの問題かと思います。
楽器をあまり弾かない、または精度のみを考える技術者などは、プレーヤーの欲しいポジションを平気で削り、不必要なポジションの高さを残すようなことをしてしまうかもしれません。
技術だけでは完成しない楽器の面白さが、そういった作業の違いの中にもあるような気がします。
別の機会に、また擦り合わせ効果については書いてみたいと思います。